お菓子教室に

 なんと昨日は、お菓子作り教室の生徒になった。定年退職者なればこそできることだ。受講生は十数人。うち男はぼく一人。消え入りそうなこそばゆさ。

 講師の先生は知る人だし、知り合いのご婦人が二、三名参加しているしと、誘われるままに顔をのぞかせた。

 会場は、さる福祉センターの調理室。入ると、立派な調理台がいくつも並び、鍋、釜、包丁から、見たこともない調理器まで、調理台ごとに道具一式、至れり尽くせりにそろっている。

 お菓子に限らず、料理教室なるものに参加したのはもちろん初めてだ。レシピを配られ、先生に教わりながら、マーガリンやら砂糖やら、あれやこれやの粉やらを、秤に乗せて計量し、ボールに入れてこね、容器に移し、その上にリンゴの薄切りやら何やらを乗せ、最後はオーブンで焼く。

 30分あまりで焼き上がるまでのその間に、また次のお菓子の下準備をする。なんとみごとな手際よさだ。目を白黒させているうちに、2時間後には三種類のお菓子ができ上がっていた。

 教わりながら、ぼくはつまらぬことを思い出していた。こういう場面、昔あったよな。調理台がずらっと並んでいたよな。あれはいつだろう。そうそう、小学5年生のときだ。

 家庭科の調理の時間だ。何を作ったかは覚えていないが、味噌汁の記憶だけは鮮明だ。具を入れ、ぐつぐつさせ、味をつけ、最後に味噌を入れたのだった。

 一班で一鍋。男女混成の5,6人の班だった。味噌は、ある女の子が、袋から絞り出すようなあんばいで入れたんだ。それを見つめながら、ぼくはとっさに、正直な感想を一言ぽつっと発してしまった。

「うんこみたいじゃな」

 今まさに絞り出しつつあった女の子はぼくをギロッとにらみつけた。あまりの険しさに、頭がくらっとして、ぶっ倒れそうな恐怖を覚えた。

 眼力による攻撃に続いて、猛然たる言葉の速射砲が撃ち込まれた気がする。

 いちいちの言葉は忘れたが、最後の仕上げは、

「バカ、もうあんたなんか、入れてあげん」

 そう、この言葉は今もぼくの胸に突き刺さって抜けない棘なのだ。

 家内とは、小学5,6年生の同級生である。あの教室にいたことはまちがいない。だが、あの女の子は家内ではない。それだけは断言できる。それがわかるだけで、ぼくはいまほっと一息つくことができる。

 お菓子は、油も砂糖もたっぷりすぎるくらい使って作るもの。身にしみて実感した。

 実においしいのができた。だが、おいしさのあまり、パクパク食べすぎると、あとが怖い。持って帰ったお土産は孫のおやつにちょうどいいと、もうすっかりじいちゃん気分である。

(2013.1.31)





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この記事へのコメント

hiromi
2013年02月07日 15:02
はじめまして。日本語の講師をしているものです。例文で、「悲しいものがある」を検索していたらこちらに辿り着きました。生徒を見送るときの気持ち、同感です。。
mybochan
2013年02月07日 16:15
hiromiさん、コメント、どうもありがとうございます。
「教師とは悲しいもの」(http://new-bochan.at.webry.info/201009/article_48.html
に対するコメントだと思います。
実は私、「やめよう、やめよう」と若いころからずっと思っていながら、山本有三のようにはきっぱりと決断できないまま、いよいよ定年が近づき、このままずるずる定年を迎える自分が許せなくなって、定年前に退職してしまいました。

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