生かされて生きている

 全身性アミロイドートスと告げられて、そろそろ丸2年だ。

 あのころぼくは、ひたすら元気だった。ほんとに懐かしいよ、あのころが。ほんとに、ほんとにね。知らぬが仏で、毎日、城山に登り、プールで泳ぎ、ウオーキングを楽しんでいたんだから。なんだか遠い昔に思えるな。

 病気だと知らされたのは、まったくもって偶然の賜物だった。そう、賜物なんだよ! 知らずにいたら、今ごろぼくは、もう命つきていたかもしれないんだから。アミロイドーシスというのは、実に危険でやっかいなやつだ。手遅れになれば、たちまちにして死を招く。早い段階で発見できたのは、ひとえに偶然の女神の気まぐれのおかげ。そう思って、ただ感謝、感謝だ。

 その偶然というのは、こういうわけだ。

 年に一度の健康診断を、在職中は職場でやっていた。退職すると、市が補助してくれる特定健康診断と呼ばれるもので受けることになった。ぼくはそれを毎年3月、S病院で受けてきた。ここ何年か、肝臓や腎臓に軽い異常があるらしく、「要精検」なる文字が記されるようになった。

 しかし、気にかけることもなく、「要精検」をぼくは事実上、無視し通した。

 そしていよいよ2年前の4月。持病の潰瘍性大腸炎を診てもらっているU病院で、大腸と胃の内視鏡検査をしてもらった際、なぜかふと「要精検」が頭に浮かんだのだった。それじゃまあついでにと、腹部エコーと、さらにはCTスキャンをしてもらった。

 結果、肝臓と腎臓に目立った異常はないけれども、胆のうに泥がたまっていると言われた。それ自体は放置しても問題はないものらしい。だが、ガン化したときなどに泥があると発見が難しいから、治すなら治した方がいい、その方法は胆のうの切除だと言われた。

 「どうしますか」と聞かれ、「じゃあ切除します」と答えると、「うちの病院ではできないので、県病院を紹介しましょう」となり、私の教え子であり、その分野の専門家でもあるH先生を紹介してもらった。

 さてそこで、舞台は県病院となる。卒業後もずっと親しくしてきたH先生は、検査結果を見るなり、「先生、今は胆のうどころの話じゃないですよ。腎臓ですよ、腎臓」。

 こうして腎臓内科に回された。再び検査。その結果、「これは腎臓の問題ではないですね。血液の問題のようです」。さらに血液腫瘍内科というところに回されたのだった。

 次から次へとたらい回し。だが、大事な大事なたらい回しだった。事の真相へと一歩一歩と近づいていくたらい回しだった。

 血液内科に行くと、いよいよ大がかりな検査が始まった。これでもかこれでもかと、徹底的に全身の全臓器が何日も何日もかけて調べ上げられ、挙げ句に告げられたのが、全身性アミロイドーシス。「血液のガンの一種です」と言われ、「症例の少ない難病です」とも言われた。

 家に戻ってネットで調べた。「治療をしても予後不良」、「余命はせいぜい1,2年」。こんな言葉が渦のように逆巻いている。目の前から光が消えた。一人机に向かって男泣きに泣いてしまった。

 その後、抗がん剤の投薬や、造血幹細胞の自家移植という治療を受けた結果、いまは比較的落ちついた寛解状態になっている。当座の命の危機は去ったわけだ。ありがたいことだ。

 それにもしろ、たまたまU病院で「要精検」を思い出したこと、エコー検査を受けたこと、「どうしますか」と聞かれて「切除します」と答えたこと、胆のう切除の紹介状を県病院に書いてもらったこと、H先生の適切な判断で直ちに腎臓内科に回されたこと、腎臓内科の判断ですぐさま血液内科に回されたこと、血液内科でいきなり大検査が始まったこと。これらはすべて、なるべくしてなった必然の流れと言えば言えるが、一つ一つは、やはり偶然だった。偶然の積み重ねだった。不思議な不思議な偶然の積み重ねだった。

 どの段階が抜け落ちても、全身性アミロイドーシスという病気は発見されなかっただろう。つまり、ぼくの肉体は、危険にさらされたまま、気づかぬうちにむしばまれ、とことん悪くなって初めて自覚症状に苦しみはじめ、そのときには時すでに遅く、今ごろはもうこの世とおさらばしていたかもしれないのだった。

 人は自分一人の力では生きられない。多くの人の力と、ときには偶然の手まで借用して、生かされて生きているのだ。そのことをつくづくと、しみじみと、ありがたく実感させられるのである。

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 今日は家の前のミカン畑から、まだ蕾なのに、花の香りが漂い始めた。すがすがしい初夏の香りだ。すーっと深呼吸すると、生きている喜びが体の芯まで染みこんでくる。

 ツツジは今を盛りと咲き誇っている。アヤメだろうかカキツバタだろうか、五月の花もあちらこちらで色づきはじめた。近くの神社の鎮守の森は、新緑が発するみずみずしい香りで、ああ、息がつまりそう。蚊柱が立っている池の土手では、ツバメが十数羽、チーチー鳴き交わしながら、喜々として飛び回っている。

 みんな生きているんだ。ぼくも生きているんだ。これが生きているってことなんだよな。

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