ファシズムの心理

東京にいる孫たちと、もうずいぶん長く会っていない。コロナのせいだ。

会えない代わりに、LINEでメッセージをやりとりしたり、顔を見ながら電話をしたりと、かえってじいちゃんと孫たちの心のつながりは強くなっているのかもしれない。

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鎌倉幕府の日々の動きを日記風に記した『吾妻鏡』を読んでいると、たとえば京都で要人が死んだり、元号があらたまったりという、超重大な知らせでさえも、特急便で4,5日、普通便だと1週間から10日はかかっていた。

それでよかったのだ。のんびり、ゆっくりすごしていたのだ。

現代人は異常な気ぜわしさの中に生きている。いつでもどこでも、他人との同時性を確認していないと安心できない。そのためスマホやケイタイを一瞬たりとも手離せない。

その他人というのは、良識ある一般的世間の人々というよりも、仲間内、同じ考えを共有する友人、直接の知り合いでなくてもネットを通じて同じ考えだと思える人たち、自分に安心を与えてくれる人々、そういう狭い同意グループであることがほとんどだろう。

仲間内で情報から遅れることは、ほとんど死にも近い村八分を意味することにもなりかねない。彼らは必死なのだ。オンラインで即時的に、常に共通の話題に食らいついていなければならない。ほんとに必死なのだ。

しかもその話題というのが、考えの違う他者を排除するものであることがあるから、こわいのだ。この排除の論理は一度火がつくと、あっという間に猛火となって燃え広がっていく。ファシズムの心理と同じだ。意見が過激であればあるほど、彼は英雄とみなされ、皆がずるずるとその方向に流されていく。これがファシズムだ。

戦前における、ドイツのナチス親衛隊やヒトラー・ユーゲント、あるいは日本の青年将校の過激性と変わりがない。

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いや、決定的なちがいがある。それは、現代の過激な意見には、その背後に無責任という魔物が貼りついていることだ。見えないところで、そっと陰に隠れて過激な意見を拡散させ、特定の他者を追い詰める。過激の当人は、決して姿を見せず、責任をとらない。

ヒトラー・ユーゲントや青年将校は、そのような姑息な態度をとらなかった。堂々と胸を張って自分を主張した。

アメリカのトランプ党(と呼んでおく)にも、ファシズムの心理が濃厚である。党首の発言が過激であればあるほど、群衆はそれに陶酔し、「ハイル・ヒトラー」ならぬ「トランプバンザイ」を叫ぶのである。論理性や倫理性、事の真偽などは、彼らの関心の外である。それに対して何の敬意も払いはしない。大事なのは、一般的価値観からいかに外れているか、いかに異常であるか、いかに過激であるか、それだけなのだ。

彼らに一貫した思想性や政治理念などありはしないが、唯一あるとすれば、それは一般的良識や価値観を「悪」とみなして攻撃する思想だろう。その思想に立てば、党首の発言の真偽など、詮索する方が悪。どうだってよいのだ。ただその過激性や異常性に酔っていれば満足なのだ。ファシズムの心理そのものである。

話がそれてしまった。孫とじいちゃんとが、仮に別々の国に住んでいたとしても、オンラインで簡単につながり、安心な顔を見せ合いながら話のできる今の世の中を、とりあえず、ぼくは「よき世の中」とみなすことにしよう。正しくは「便利な世の中」であろうか。

鎌倉や、室町や、江戸の時代を、今と対比して「悪しき世の中」と呼ばないためには、今を「便利な世の中」(「遠方との即時的情報交換の世の中」)と呼び、かつてを「遠方との即時的情報交換のできない世の中」と呼べばよかろう。だから、今の人たちが、鎌倉や室町や江戸の人々よりもよい暮らしをしているかというと、それはあまりに一面だけを見た見方であって、別の側面(たとえば濃厚な対人的信頼関係など)から見れば、今をよい時代と言い切れる人は少ないだろう。のんびりと思索や自己啓発ができる世の中という面から見れば、ますます「今」をとる人は減ってくると思う。これは月単位、年単位で生きるか、秒単位、分単位で生きるかの問題でもある。人として生きるか、ハツカネズミとして生きるかの問題とも言いかえることができる。

かくして、世の中の半数以上の人々は、弱者、貧窮者へと追い込まれ、ハツカネズミとして生きるしかなくなっていくのである。人間らしい思索や自己啓発は、生活から放逐されてしまう宿命にあるのである。自分を弱者、貧窮者、ハツカネズミとして生きるしかないと自覚しているものだから、より下位の被差別者を生み出す以外に心の安らぐ場がなくなるのである。

その上、「便利な世の中」には、悪意を持った者からすれば、いかようにでも悪用できる、まだちっとも乗り越えられていない大問題が残っているから、始末に悪い。

(2020.12.7)


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