鴨の北帰行

散歩コースにある二つの池で、先日まで鴨の夫婦が仲よく泳いでいた。いつ見てもそれが当たり前の光景だった。ところが2,3日前、「あれ、いないな」と思った。そのときは、たまたまどこかにひそんでいるのかと思ったりもしたのだが、今日もいない。それで注意してさぐってみた。やっぱりいない。どちらの池にもいない。

20200223_1745_01small.jpg(つかず離れず二羽はいつも並んで泳いでいたのに……)

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(レンゲ畑のレンゲ)

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(今日の夕日)

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(妻の実家はとうとう更地に近くなってしまった。)

これは明らかに北に飛んでいったのだ。北の国に帰っていったのだ。どちら向きを「帰る」と言うべきかわからないが、繁殖は北の国で行うはずだから、彼らの生まれはやはり北の国だ。とすれば、やはり「北に帰った」のだ。たぶんシベリアへと帰っていったのだ。

なんだか寂しい。先日まで、いつ見ても二羽が仲よく並んで泳いでいたのに、それが突然いなくなって静まりかえった池を見るのは寂しいものだ。心の中にすっぽり穴が空いたように寂しいかぎりだ。

それにしても不思議なのは、二つの池の鴨が同時にいなくなったことだ。二つの池は1キロ近く離れている。互いに交信し合っているはずはない。しかも普段は水の上を泳いでいて、決して他の鳥のように空を飛んだりはしない。連絡し合うことはまずもって不可能だ。どうやって連鎖的に同時に飛んでいったのだろう。

考えられる一つは、北帰行の衝動が生じてどちらかの池の鴨が空に飛んだなら、まずはあたりをぐるぐる飛行して、仲間がいれば「一緒に行こう」と合図をすることだ。もう一つ考えられるのは、そもそも北帰行の衝動を生じさせる何らかの自然界の条件が、どちらの池の鴨にも厳密に同時に感じとられることだ。

後者はまさかという気もするが、満月の夜、同時に一斉に産卵するイカだったか、珊瑚だったかがいたように思う。あるいは、何十万、何百万というアカガニが、何らかの自然現象を合図として、一斉に山から海に産卵するための行進をし始める。自然界にはそういう現象はよくあるのだと思う。

鴨だってそうだ。夫婦二羽で飛ぶよりも、幾組もの夫婦が一緒になって飛んだ方が、はるかに安全に北に帰れるだろう。身を守るための進化的知恵とでも言うべきものなのだろう。この二つの池のほかにも、周囲にはまだいくつも池があるから、おそらくはそれらの池の鴨たちが、ぼくの気づかなかったあるとき、一斉に列をなして北に帰ったのだろう。雁のような列をなして。

それにしても何と不思議な知恵だろう。同時に一斉に飛ぶという、その知恵が発達しなかった鴨の系統は、長い進化の過程で死に絶えた。北に帰る途中で危険に遭って数を減らし、やがて系統そのものが死に絶えた。多分そういうことになるのだろう。

いやもっとはっきり言えば、そういう知恵を身につけた鴨の系統だけが、長い歴史を生きのびてきた。それが正しい言い方だろう。

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(2021年4月10日)


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